ペットは責任をもって

10年くらい前の秋の初めの頃だったんだけど、当時の横浜市の自宅から甲府の方にバイクでツーリングに行こうと思って、朝早くひとりで出かけてったんですよ。
高速道路を使うんじゃつまんないから、全部一般道で。


で、甲州街道(国道20号)をずっと走ると甲府の手前で笹子峠っていうのを越えなくっちゃならないんです。
まあ普通の人は笹子トンネルをくぐって何の苦労もなく通過するんですけど、それじゃおもしろくないよなあ、と思って旧道の峠道のほうを選んだんです。


ワインディングを気持ちよく走れるかなあと期待して行ったんですけど、車通りが少ないせいか路上に落ち葉が敷き詰められちゃってて思うようにスピードが出せず、なんか行けども行けども狭い山道が終わらない。
しかも燃料が無くなってきて予備タンクに切り替えて走ることに。
「やばいなあー。こんな山の中にガソリンスタンドがあるわけないし。早く峠道終わらないかなあ。」
と、ちょっとどきどきしながら、まだ薄暗い山の中を省エネ走行し続けていたその時、なにか前方で複数の動くものの気配が。


「え?こんな山奥に、人…?」と思ったんですが、どうも様子がおかしい。
何か妙な緊張を感じながらおそるおそる近付いてみると、その動くものの正体は、北方系の大型犬だったのです!


シベリアンハスキーかアラスカンマラミュートかちょっと区別がつかなかったんですが、道路から山の斜面にかけて十数頭いました。
とりあえず距離を置いてバイクを止めて考えました。
「今来た道を引き返すとなると燃料が心配だ。
だいぶ走ってきたからもうすぐ山道も終わるはず。
幸い、やつらこっちをちらちら見てはいるが、明確な敵意はなさそうだ。
普通に通り過ぎればだいじょうぶかもしれない。
ちょっと道幅が狭いのと落ち葉がいやだけど。」


行くしかない、と心に決め、バイクをスタートさせました。
静かに、さりげなーく走行。
思った通り、犬達の反応は薄いものでした。
「お、けっこう大丈夫じゃん」と犬の間を通り抜けたそのとき、数頭の犬がこちらを追ってくるではありませんか!
スピードをあげて振り切りたいんですが、なにしろ落ち葉で滑りやすい路面ですから、無茶はできません。
「ぎゃーっ!」と心の中で叫びながら(実際に叫ぶと犬達の興奮をあおると思った)そのまま数十メートル逃げると、ようやく彼らは追撃の手をゆるめてくれました。


燃料の不安は残るものの、とりあえず一安心して数キロ走ると、ちょうど開店時間になった小さなガソリンスタンドを見つけました。
そこの店主のおじさんに今の体験を話すと、
「それは、こんな顔だったかい?」
と振り返ったおじさんの顔が犬に…、
みたいなことはなかったんですけどね。


もしかしたらあの犬達、シベリアンハスキーのブームが去った後、業者に捨てられたのかもしれませんね。
生き物は責任をもって飼育しましょう。
おれが怖い思いをするからね。
10年前はハスキーだったけど、今だったらチワワかな。
山の中でチワワの群れに会ったら…。
そんなに怖くないんじゃないか?
…(想像中)
いや、やっぱ怖いよ!